副市長 × 女性リーダー
スペシャル対談

2024/08/26

副市長×女性リーダースペシャル対談Vol.5。仕事も家庭も、自分にとって気持ちのいいスタイルを見つけること

これからキャリアアップをめざしていく女性に、「キャリアを考えるきっかけ」や「キャリアアップのモチベーションを上げる機会」をつくりたいと、名古屋市副市長の杉野みどりが、第一線で活躍する女性幹部と対談。今回は「みなとアクルス」の開発に携わっている東邦ガスの今枝薫さんと、女性管理職に求められるスキルや柔軟な家族の形などについて語り合いました。

(プロフィール)
東邦ガス株式会社 用地開発推進部 部長
今枝薫さん
愛知県出身。1999年東邦ガス株式会社入社。技術部、ソリューションエンジニアリング部、都市エネルギー営業部を経て、2021年から現職。現在は「みなとアクルス」の開発に携わっている。

名古屋市副市長
杉野みどり
岐阜県出身。名古屋市役所入庁以来、区役所、都市計画、高齢者福祉、児童福祉に携わり、2021年、副市長に就任。

↑対談は、一般社団法人中部経済連合会と名古屋市が設立した会員制コワーキングスペース、NAGOYA INNOVATOR’S GARAGE(ナゴヤイノベーターズガレージ、中区栄三丁目)で行いました。

 

大学時代の経験が今の仕事の土台に!
“チームの輪”の大切さを学びました

(ーは杉野が発言)

ー今枝さんは大学時代、建築工学を専攻されていたとお聞きしましたが、東邦ガスに入社されたきっかけを教えてください。

大学時代に企業の方とプロジェクトをやっていたこともあり、最初はそのまま大学に残ろうと思っていました。でも、一緒にプロジェクトをやっている方々から、社会人を経験した方が人間的に成長すると言われて、それなら親孝行も含めて、地元愛知の企業に就職しようと思いました。また、「建築を本当にやりたいなら、発注側になって自分が建てたいものを建てるのも面白いし、そういう機会が多いのがインフラだよ」と教えていただいたので、愛知にあるインフラの会社を当たってみようと思い、最初に電話をしたのが東邦ガスでした。

ー大学時代に携わっていたプロジェクトとはどんな内容ですか? また、それが今の仕事にどう役立っているのか教えてください。

ユネスコと外務省が立ち上げた、カンボジアのアンコール遺跡の修復プロジェクトに参加していました。会社に入ってからは、いろいろなプロジェクトに携わっていますが、プロジェクトは1つの目標・目的に向かって、みんなで同じベクトルを向けなければいけないので、その精神は大学時代に学んだと思っています。

ー大学時代からプロジェクトを進めていく土台ができていたということですね。それが今のお仕事にも活かされているのは素晴らしいですね。

“チームの輪”がとても重要だということを教えていただきました。その建物を何百年も持続させるために、建築だけではなく、石を専門にしている方や考古学者、接着を専門にされている方など、各分野の専門家が集まり1つの方向を目指していました。

ーその後、東邦ガスに入社され、実際に発注する側になって気づいたことはありますか。

入社当初は技術部の建築グループに所属していたのですが、ちょうど弊社が新しい建物を多く建てる時期だったこともあり、企画・設計・施工を担当することができました。発注者・受注者がともに、よりよい建物のために切磋琢磨できる関係性を築いて建設していく過程がとても面白かったです。また、建物は建てたら終わりではなくて、建てた後に何十年も維持管理をし、最後、解体しないといけない。建物のライフサイクルが重要だということも学びました。

ー今枝さんは現在、名古屋市と東邦ガス様の共同提案によって国から脱炭素先行地域に選定された「みなとアクルス」の開発を担当されていますが、このプロジェクトにつながるまでの実績をぜひ伺いたいです。

2005年に開催された「愛・地球博」のガスパビリオンはまさに技術部で学んだ集大成でした。企画・設計から関わり、施工し、会期後は、解体での3Rを実現しました。その後は、業務用営業に異動になりましたが、ちょうど2人目の子どもが生まれた時だったので、営業の最前線で働くのは難しいと上司に相談しました。「それならシステムを作ってくれないか」と言われ、3年かけて新しいシステムを作りました。システムのプロセスは建物を建てるのとよく似ています。このシステムにはどういうニーズが必要であり、それをどう設計して、それをどう開発していくか…。工程は類似していても各工程のアプローチの方法は全く違っていて、自分の中では建築しか知らなかったため納得がいかないことも多く、情報システム部という専門の部隊の方たちと議論したこともありました。その中でまだ100年も経っていないシステム開発と、建築のように何千年の歴史があるものは作り方そのものが違うということを学びました。その経験を経て、みなとアクルスの開発グループに異動になりました。

 

↑オンとオフを切り替えることが今枝さんのストレス解消法。週末は家族との時間を大切にしています。

 

さまざまな人との出会いは管理職になった特典!
社外の人と話すことで視野・視座が広がりました

ーところで子育てと仕事との両立は大変だったと思いますが、どうやって切り抜けましたか?

私は上司や職場の方々に恵まれていて、子どもを産んだことがマイナスだと思ったことは正直ありませんでした。1人目の時はほとんど育休も取らずに復帰しましたが、子どもが熱を出したときは休みをいただきましたし、時間についても定時で帰宅させてもらっていました。2人目の時も半年で復帰する予定でしたが、さらに半年延長させてもらいました。今の自分の立場で考えると、仕事をやりくりする人事関係ではご苦労をかけたと思うのですが、私の願いを快く受け入れてくれて感謝しています。

ー会社の制度はもちろん、周りのサポートも充実しているということですね。

産休・育休の制度はとても整っていて、妊娠した時からサポートが始まります。産休・育休を取るとき、その後の復帰も含めてですが、本人だけではなく、本人が所属する上司も教育を受けます。だから、上司たちは「協力をするんだ」という心構えが早い時期からできています。

ー女性が仕事を続けていく中で、産休・育休というのは大きなポイントで、会社がサポートしてくれないと続けにくくなるということがありますが、上司を教育するシステムがあるのは素晴らしいことですね。

本当にそう思います。今、私の部にも育休を取っている女性が2人いますが、彼女たちがすんなり戻れるような環境を作る努力をしています。

ー入社された時からキャリア志向はありましたか。また、管理職になって変わったことがあれば教えてください。

総合職で入っているので、仕事を続けるというのが前提でした。でも、入社した時に自分がこの会社の中で昇進したいと思っていたかというと、そうではありませんでした。私の場合は、大きな仕事をさせてもらっていたこともありますが、仕事をした成果・評価がキャリアにつながっていると思っています。管理職になって変わったことといえば、まさに杉野副市長とお会いする機会に恵まれました(笑)。杉野副市長以外にも、多方面で活躍されている方にお会いする機会が増えましたが、社外でそういう方々にお会いすると視野・視座が本当に広がります。それは私の中でとてもモチベーションになりますし、「管理職になった特典はこれだ!」と思っています。

ー私も今枝さんとの出会いは大きな宝です。
ネットワークが広がるのは財産だし、いろいろな情報や交流を持っていらっしゃる方が多いので、仕事にもプラスになりますよね。

逆に言うと、刺激を受けて「まだまだ自分も勉強が足りていないな」という気づきにもなっていますし、いただいたご縁は大切に育てていきたいと思っています。

ー今枝さんは学生時代から建築をやっていたので、人を軸にすることを大事にしているのがすごくいいですね。市役所の仕事も“人が芯”という視点が大事ですので。人づくりとまちづくりも重なり合うところがありますよね。

まさにそうです。「みなとアクルス開発」と言っていますが、私は「みなとアクルス」はまちづくりだと考えています。ハードを作るだけではなく、ソフト面、いろいろな仕掛けを作りながら、まわりに住む人、働く人、訪れる人がまちに興味を持ち、愛着をもち、まちを育てていきたいと思ってもらえるのが大切だと思います。

ーしかも、名古屋の何十年も先を見据えてのまちづくりなので、コンセプトを持って進めていただけてとても嬉しいです。今後も期待しています。

 

↑今枝さんの自宅には本に囲まれた図書館のような場所があると聞き「こだわりが詰まっていますね」と副市長も興味津々です。

上司と部下ではなく「仲間(チーム)」
一人ひとりに寄り添うことを心がけています。

ー今枝さんのお話を聞いていると順風満帆に来られたように感じますが、壁に当たったり困難を感じたりということはなかったのでしょうか?

先ほども話した通り、営業に異動した時、家庭的な事情で時間の制約がある中で、私が役に立てるのだろうかと悩みました。そういう話を上司に伝えたところシステム開発の仕事をいただけて、そのおかげで楽しく仕事をすることができました。

ーいい会社ですね。そういう相談しやすい環境づくりも大事ですね。

あとは、部下を育てようと思ってくれる上司が多いですね。私がみなとアクルスに異動した時の当時の役員には「プレゼンをする機会が増えてくるから」と、資料の作り方を教えていただきました。マネージャーになった時、人と話す機会や発表する機会も多くなったのですが、上司が発表の時の癖の指摘や、「今日はよかった」など、必ず評価をしてくれました。とても恵まれた環境だったと思います。

ー今枝さんは女性管理職のパイオニアだと思いますが、女性で影響を受けた方はいますか?

子どもを出産するというタイミングの時に、3人お子さんを産んで、ずっと仕事をされていた方がいらっしゃって。一般職の方でしたが身近に手本になる方がいたのは大きかったと思います。また、男性も女性も含めて、部下を育てたいという上の方々を見てきたので、自分もやってもらったことを、部下に伝えていきたいと思っています。

ー本当に素晴らしい職場というのが伝わってきますね! 部下への声かけなど、管理職として気を付けていることがあれば教えてください。

私は部下に「ちゃんと見ているよ」と伝えようと思っています。その人を見て、それぞれの受け止め方を見ながら話すようにしているので、注意をする時や指導する時も言葉遣いを変えています。見てもらっていると思うと、自分の悩みも相談しようと思ってくれますし、自分がしたいことがあったらそれをアピールしてくれますので、壁を作らないように気を付けています。上司だから、部下だからいうより同じプロジェクトをやっている仲間「チームアクルス」メンバーとして、目指す目標に向けて、お互い様の心を持ったチームづくりを大切にしています。

自分の好きなことを仕事にするために
小さな頃からいろいろな体験ができる環境を!

ー名古屋市は理系の女性管理職が少ないのですが、今、国立大学も理系女子のための推薦枠をつくろうとしています。そこまでしないとなかなか理系女子が育っていかないし、定着していかないという感じですが、御社の中では技術系の女性は育っていますか?

今、私の下にいる女性スタッフの半分以上が技術系です。

ー次の管理職になる層が育ってきているということですね。

いろいろな環境下で頑張ろうとしている人たちをしっかりと評価すれば、女性管理職も増えていくと思っていますし、単純に母数の問題だと思います。自分の働き方や自分が目指しているところをしっかり考えている人たちが多いので、自然と私の後に続いてくれる人がいると思っています。

ー今は女性に光を当て、理系女子の数を増やそうと言っていますが、そういう意味では男女関係なく育てるということですね。

そうですね! 理系の大学に入っても、そのあと何をやるのかがわからない人が多いと思います。私の場合は小さな頃から建物が好きで、建物に関係した仕事に就くためにどの学部に入るか考えました。本来はそうあるべきだと思っています。自分がどんな仕事をしたいかというのが先にあって、その仕事をするためにどういう学校・学科に行くのかを考える。そしてそれは、大人が伝えてあげないといけない。それには小さい頃からいろいろな体験をさせてあげるのが重要だと思っています。

ー今はみんな漠然としていて、やりたいことがわからない子どもが多いと感じています。そういう意味では今枝さんは、子どもの頃からの好きを極められており、とても幸せなことですね。

自分の子どもたちにも選択肢を与えてあげたいので、いろいろな体験をさせています。また弊社の自慢になってしまって恐縮ですが(笑)、弊社には子どもたちに自分の親の働き場所を見学して体験させようという、制度があります。例えば子どもの名刺まで作ってくれるのです。私が働いている部署に来て、名刺交換をして「おかあさんはこういう仕事をしているんだよ」と周りの人が教えてくれて、とても良い経験をさせてもらったと思っています。

ーまさにキャリア教育ですね。学校外の学びはすごく大事で、しかも生きている現場だとなおさら思い出に残りますよね。学校という空間の中で学ぶことも多いですが、そこから解放されて子どもたちがいろいろな人に出会う場を与えることが成長に役立つと思っています。今、名古屋市で、子どもたちの体験の場をどうやって作っていくかを検討しています。学校という枠組みの中でキャリア教育を積み上げていくことも大切ですが、子どもたちが学校という枠に関わらず、体験を積んでいくにはどういうことができるだろうかという議論が始まっていますので、ぜひレクチャーしてください!

 

↑「子どもたちが“好き”を見つけるきっかけを増やしたい」と語る副市長に「みなとアクルスでもそのお手伝いしたい」と今枝さん

 

コミュニティーを大切にする名古屋
子育てや介護をするのにもいい環境だと思います。

ー名古屋で管理職を目指す女性が増えていくのが理想なのですが、東京で就職する女子学生が多いのが現状です。今枝さんは東京から名古屋に戻ってこられましたが、名古屋で働くメリットがあれば教えてください。

私はとてもいいまちだと思っています。名古屋はほどよくいろいろなものが揃っていて、情報過多ではなく、ほどよく情報量もあります。背伸びをせずに、自分らしくいられるまちではないでしょうか。三世代同居・近居が多い地域性で、子育て期に家族の支援も受けやすいですし、親の介護でもすぐに駆け付けられる安心感は非常にいい環境下にありますよね。また、コミュニティーを大切にする文化は、この地の強みだと思います。私の子どもが小さい頃、親に見てもらっていましたが、親の都合が悪い時には近所の方が預かってくれました。地域のコミュニティーが根付いていて、自然と助け合いができる風土はとても魅力的です。

ーその、程よさを伝えるのがなかなか難しいんですよね(笑)。

夫は関東の人間ですが、とても住みやすいと言っていますよ。

ー結婚を機に名古屋に来られたのですか?

夫は東京で仕事しているので週末だけ…。

ーえ、そうなんですか!

はい。金曜日の夜帰ってきて、日曜日の夜出かけて行きます。初めからお互い、それを承知で結婚したので仕事を続けられたのかもしれません。

ーそれはびっくりしました! 家族のあり方や働き方っていろいろなスタイルがありますね。これでないといけないと決めつけると上手くいかないこともありますが、柔軟な家族の形でいいんだよというのを実証していただけるいい例ですね。

ーまさに女性もそうだと思うんですね。私は自分のスタイルで管理職になりましたが、無理する必要はなくて、その人その人に合った進み方をすればいいんじゃないかなと。そして、それを許容できる、社会・企業・上司であるべきだと思います。

ーそれぞれが仕事を持っている中で、お互いにどこが気持ちいい仕事の仕方であり、ライフスタイルであるかということを話し合って決めていく。「自身にとって気持ちのいいライフスタイル」というのは、まさにウェルビーイングですね。

本当に、いろいろな価値観がありますので、自身の価値観をおしつけてもダメだと思います。

ー役割分担も同じですね。男だから女だから、こんな役割分担だというのではなく、そこは柔軟にコンバートしていくことが、これからの持続可能な社会や家族形態につながりますね! 今枝さんが仕事においても私生活おいても、いち早く心地いい場所に身をもっていかれたのはすごいと思います。

いえ、わがままなだけです。仕事を続けていきたいと思っていたので、仕事も子育ても家庭もできる範囲のことは妥協せずに行ってきましたが、それはほんの一部であり、周りにたくさん助けてもらっているので今があると思っています。

ー若い世代がなかなか結婚に踏み切れなかったり、子どもを持つということに対する抵抗感があったりという中で少子化がどんどん進んでいますが、家族の形を柔軟に考えられるといいですね。

家族の楽しさを、我々世代が伝えられていないと思います。家族みんなで過ごすのはとても楽しいとか。1人でいるより2人でいる方が、2人でいるより3人でいた方がずっとやれることも広がるし、もめごとさえもいい思い出にもなると思うので、そういうことを伝えていきたいです。

ー子どもを持つと何かを捨てなくてはいけないという考え方ではなくて、だったらこういう工夫の仕方があるとか、柔軟に形を変えていくと得られるものは大きいですね。素敵な話をありがとうございました。最後に、働く女性たちにメッセージをいただけますか。

まずは堅肘を張らずに、女性だから男性だからというよりは、一個人として何をやっていきたいかということを考えてくほしいと思います。そして、自分1人でやれることには限界があります。周りの人に協力してもらったり手伝ってもらったりすることで成し遂げられることの方が圧倒的に多いので、周りの人に感謝の気持ちを常に持ちながら、自分がやりたいことを進めていくことで、世界が広がっていくと思います。

ー私も周囲には、「自分の機嫌は自分で取ってね」「心は自分で守るんだよ」と伝えています。大変な場面に遭遇することもあると思うけれど、何が大切かといえばやはり最後は自分。心から熱いハートを持って仕事ができるように、ぜひご自分で調整してくださいね。

 

↑「みなとアクルス」ではウクライナの方との交流をはじめ、さまざまなイベントを行っています。「名古屋の地で素敵な取り組みをしていただき、いつもありがとうございます」と杉野副市長

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