2025/03/05
副市長×女性リーダースペシャル対談Vol.6。ロールモデルはスーパーマンじゃない! 一つひとつの積み重ねがキャリアに繋がります
これからキャリアアップをめざしていく女性に、「キャリアを考えるきっかけ」や「キャリアアップのモチベーションを上げる機会」をつくりたいと、名古屋市副市長の杉野みどりが、第一線で活躍する女性幹部と対談。今回は、中部電力本体を含むグループ主要3社で初の女性執行役員を経験し、現在も中電グループで精力的に活動をしている石川民子さんと、仕事に対する思いや管理職として心がけていることについて語り合いました。
(プロフィール)
中電クラビス株式会社 取締役上席執行役員
石川民子さん
富山県出身。1988年中部電力株式会社入社。情報システム部、販売本部・営業部・販売システム開発グループ長、岐阜支店各務原営業所長、販売カンパニー・事業戦略室部長、技術開発本部・先端技術応用研究所長などを経て、2022年から中電グループ初の女性執行役員として中電ミライズのリビング営業本部長に就任。2024年から中電のグループ会社である中電クラビスにて現職。
名古屋市副市長
杉野みどり
岐阜県出身。名古屋市役所入庁以来、区役所、都市計画、高齢者福祉、児童福祉に携わり、2021年、副市長に就任。

↑対談は、一般社団法人中部経済連合会と名古屋市が設立した会員制コワーキングスペース、NAGOYA INNOVATOR’S GARAGE(ナゴヤイノベーターズガレージ、中区栄三丁目)で行いました。
誰にでもチャンスはあります
それに気づくか気づかないかが大きな差に!
(ーは杉野が発言)
ー愛知県は男女間の賃金格差が大きく、その大きな要因の一つとして、女性の管理職割合が低いというデータがあり、なんとかこの状況を変えていきたいと考えています。一方で、若い人たちは女性の管理職のことを「自分とは全然違う世界の人」と思って、最初からあきらめている方も少なくなく、そうではないということを伝えていきたいと思っています。石川さんは、女性が管理職に就くことについて、若い人たちにどのように伝えてますか?
私は会社の中で「ロールモデルはスーパーマンじゃない」ということをテーマに伝えています。若い人やこれから管理職になる人たちと会話をしていると、「あの人は違うから」と言われることもありますが、そうではありません。ある時「どうやったら活躍できるんですか」という質問が来ました。「じゃあ、あなたたちは今活躍していないの?」と聞いたら、とても活躍しているんですよ。それを積み重ねていけば、自然とキャリアも積み上がります。私もこれまで積み重ねてきた結果が、今の立場につながっているので、決してスーパーマンではないと伝えています。実際に、グループ長や部長になった時、「私にできるんだろうか」という不安がありました。その中で自分ができることをやり続けて、振り返ってみたらそこにキャリアがあったと感じています。
ー私も女性職員の研修などの際に、「仕事で課題を見つけて、解決するために自分で考えてチャレンジしたという経験はあるよね。その延長ですよ」と話しています。結果として失敗したとしても、チャレンジしたという経験が必ず残るので、それを積み重ねていくことが大事と伝えています。
最近の若い人を見ていると、誠実かつ確実に仕事に取組む姿勢がみえます。全ての方が評価されるというわけではないと思いますが、絶対に管理職になれる素養はあるので、あとは自分のやる気と、そういう機会に恵まれるかどうかだと思います。
ー確かにやる気と機会はすごく大事だと思います。石川さんも地道にキャリアを積み重ねていったということですが、元々キャリア志向はありましたか?
全くありませんでした。私が入社したころは、女性は大卒も含めて、クリスマスケーキと言われていた時代なんです。24~25歳が売り時で、26歳を過ぎたらもう売れ残り(笑)。ほとんどが結婚するか、もしくはお子さんができた時点で辞めるというのが普通の時代だったので。私も働けるところまでは働くけれど、いつか結婚して子どもができたら辞めるのかな…とぼんやり思いながら、そのまま続けていたという感じです。
ー気がついたら管理職になっていたということですか?
上に上がろうという意識はありませんでしたが、1つのグループの所属長になるきっかけをいただいたときに「十分な評価をもらえた」と感じました。でも自信もないし、ものすごく不安もある中で、私はこのミッションで何を期待されたのかということを考え、私なりにできることをやろうと思いました。営業所長になった時は、現場がどういう仕事をしているのかもわかっていなかったので、現場に受け入れられるのかという不安をまた感じ、自分はそこで何ができるのかということを常に考えていました。周りに助けてもらいながら、自分のミッションの達成に向けて進めていくことを繰り返しているという感じで、あまりキャリアというのは意識してこなかったですね。ただ、自分の職位が上がるにつれ、社内でロールモデルとして見られているということも並行して意識するようになりました。自分の評価というよりも、自分の背中を見て、もしかして若い人たちがキャリアアップを目指してくれるのなら、そういうミッションもあるのかなと思いながら続けてきました。

↑石川さんが理系の大学を選んだのは「宇宙戦艦ヤマトを見て、将来そんな時代が来ると思ったから」とのこと。
マネジメント力によって、働く環境を変えられる
話しやすい環境づくりが大切です
ー石川さんは中部電力グループで初の女性執行役員ということですが、最初に管理職になったときに感じたことや大変だったことを教えてください。
相談できる人がいるということが、とても大切だと思いました。私の経歴の中の約3分の2が情報システムで、ある時期までの仕事は自分の裁量でやることができる内容で、不安なくやれていました。それが、営業システムを開発することになった時に、自分に開発経験もなかったし、プロジェクトの体制が整っていなかったこともあって、主管部・情報システム部・開発ベンダーで作るプロジェクトの雰囲気が悪くなったんです。その当時は上司含めて相談できる人がいなかったので、ずっと自分の中でぐるぐる悩んでいたんですね。ただ、会社の重要なプロジェクトでもあったので、会社も注目していて、マネージャーを変えて、プロジェクト全体のやり直しをさせるという動きになりました。
ーそれでどうなったのですか?
マネージャーが変わって、雑談でいいから毎日15分みんなで集まって何か話そうとか、500円のワンコイン飲み会をやろうとか、仕事とは関係ないところでいろんな企画を取り入れていったら、コミュニケーションが良くなるんですね。笑顔が増えて、雰囲気も変わりました。結果、私や私の周りにいるメンバーも、笑顔が増えて相談できる人も増えたんです。マネジメントをする力によって、働く環境を変えられるということがわかり、とても勉強になりました。
ーちょっとした工夫で、どんどん雰囲気が変わっていくのはすごいですね。
「あのプロジェクトには行きたくない」と言われていたのが、「あそこのプロジェクトに行きたい」と言われるようになるぐらい雰囲気が変わりました。
ーそういう意味では、誰が上に立つかで大きく変わっていくということですね。石川さんは大きな仕事を任されてきたと思いますが、これまで壁に当たったことはありますか。
先ほどもお話した通り、相談できる相手がいなかったということ。自分で作ろうとしなかったのもいけないのですが、そういう環境ではなかったことが自分の1番の壁だったと思います。男性だったら「今日ちょっと飲みに行こう」と言えたかもしれませんが、女性から「今日飲みに行きますか」とは言いづらいし、勝手に自分の中で壁を作っていたのかもしれません。普段から話しやすい環境づくりができていたらよかったのかなと思います。
ー確かにそうですね。私も悩んでいることを、思い切って先輩だったり知り合いだったりに話してみると意外なヒントがもらえたことがあります。自分が決定的なダメージを受けるということがないようにすることも大切ですね。
例えば、相談相手を作れるような会社の仕組みや仕掛けがあれば、もっとみんな働きやすくなると思います。
周りからのサポートや自分への評価が
働き続けるモチベーションに繋がる
ー石川さんは、どのように仕事のモチベーションを維持していますか?
営業部に行くとき上司に「不安だと思うけど、僕が応援するから」と、最初に言っていただけました。また、営業部に行ってからも「石川さんが来てからシステムのことがわかりやすくなったよ」と言われたこともありました。自分のしたことに対してアクションが返ってくると、やりがいを感じますね。こういう周りからのサポートや自分への評価が、働き続けるモチベーションに繋がると思います。
ーおっしゃる通りだと思います。お話を聞いていて、石川さんが仕事をやる上において大事にしているのは、自分がどういうミッションを達成するのかということだと感じました。
会社なので事業計画がありますが、それを実際にやってもらうのは現場のスタッフなので、私はこのプロジェクトを成功させるために何をしていくのかをメンバーと相談しながら、最終的にどういうミッションを達成すれば、周りの人が理解してくれるのかということを考えるようにしてきました。
ーミッションを明確にしてもらえると、ゴールもわかりやすいですね。
そうですね。自分が現場の仕事を手伝うわけにはいかないから、何ができるかと言えば、現場スタッフが働きやすい環境づくりをすることや、地域の事業場の時には地域の方々との接点をできるだけ増やして中部電力の活動を伝えることなどにも注力しました。特に女性の営業所長でしたから、好意的に話を聞いていただける機会もあったと思います。
ー女性が管理職になることのメリットはどのように感じていますか。
個人的な感覚かもしれませんが、話しやすいことかなと思います。何か相談するにしても、女性のみなさんは柔らかい雰囲気を出されるので、女性同士はもちろん、男性とも落ち着いて話すことができます。そういうところがメリットだと思います。
ー管理職を目指している女性スタッフも増えてきましたか。
中部電力では2014年に2020年までに女性の役職者を倍にするという目標を立て、それを達成したので、次は2025年に2014年の3倍にするという目標を立てました。今のところ順調に増えていると聞いているので、若い人たちも本当に頑張っていると思います。中電クラビスでも半数近くが女性ですが、管理職比率は全国平均並みの12%程度ありますので着実に頑張ってくれていると感じています。
ーそういう人たちが成功体験を重ねて、管理職になっていくということですね。
そうですね。若い人たちとの会話の中で、「自分の中で、石川さんは違う世界の人だという見方をしていたけれど、そうではないんだと感じました」と言ってくれた人たちがいたので、地道に頑張ればその先にキャリアがついてくると思ってくれたんだと思います。
ーやはり会話は大切ですね。

↑失敗することもキャリアアップの第一歩。石川さんのプロジェクトがみるみる変わっていった過程を聞き「ドラマみたいなことが本当にあるんですね」と副市長も興味津々です。
いろいろな観点からものごとを見ることで
自分の視野も可能性も広がります
ー石川さんの出身校である名古屋工業大学は、女子枠を設けて、女子学生を増やしていこうと取り組んでいますが、理系を目指す女性たちにアドバイスはありますか。
理系だから文系だからではなく、自分の好きなことや自分の興味あるところをしっかり伸ばせばいいと思います。自分の技術をぐっと深めたいという人もたくさんいると思いますが、私も情報システムにずっといると思っていたけれど、違うことをやらせてもらって視野が広がったり、人脈ができたりしました。もちろん自分の技術はしっかり深めて成果を出してもらいたいけれど、それにとどまらず、いろいろな観点からものごとを見ると全く違う働き方もできるので、ぜひ自分の可能性を広げてもらいたいなと思います。
ー固執しすぎないとこが大切だということですね。
そうです。キャリアアップをしていく中で、自分の不得意なポストにつくことも多々あると思います。これまでの自分の知識や技術だけではなく、例えば会計だったりマーケティングだったり、雑学でもいいので視野を広げて勉強すれば必ず役に立つと思います。
ーおっしゃる通りですね。本当にいろいろな知識や情報を自分が持っておくと知らない世界が広がります。だから、社内だけではなく社外で知り合った人との情報交換も大事ですね。
社会はどんどん変わっていて、今は働く女性を支援する制度がとても充実している会社もあるので、そういった人たちと情報交換できるのはありがたいことだなと思います。
ーこれまでこのインタビューに登場してくださったみなさんも、ネットワークが広がったことが管理職になった醍醐味だと言われますね。
職責が上がることによって融通がきくことも増えますよね。自分はこうしたいということに対して仕事もやりやすくなりますし、その度に人脈も広がっていて。別の機会でもネットワークが繋がっていくので、全体がいいサイクルで回っていくのかなと感じています。
自分の中でできることをどんどんやっていけば
成長を実感する時が必ず来ます
ー最後に読者のみなさんへのメッセージと、石川さんの今後の目標を教えていただければと思います。
若い人へのメッセージは、「ロールモデルはスーパーマンじゃない」ということです。みなさんご自身の中でできることをどんどんやっていただきたいし、その中でチャンスがあれば掴んで欲しいです。それを繰り返していくと、仕事の成果はもちろん、自分の成長を実感する時が来るので、ぜひそういう経験をしていただきたいですね。そうするとそれがモチベーションやキャリアアップへの第一歩にも繋がっていくのだと思います。今後の目標は、今の会社は現場との距離感が凄く近いので、自分のやりたいことを現場レベルのディスカッションをしながら、チームのモチベーションを上げて、売上をあげて、みんなの給料をあげていければ…。これをみんなと一緒に達成できると嬉しいなと思います。
ーとても頼もしいですね。
いえ、私は地道にやってきただけなので。
ー地道にやってこられたことが今に繋がっていると思います。私が若い人たちに言いたいのは、自分とあなたの間に大きな差があるわけではないということ。ポジショニングに不安を感じることもあると思うけれど、ポジションがつけばついただけ、その椅子から見る景色はどんどん違ってくるので、不安を感じることはありません。情報も人脈もポストについてくるので、まずはやってみて欲しい。ポジションが上がれば、あなたが思っている以上にできることが増えますよ。
その通りですね。
ーここに登場してくださったみなさんは軸がぶれなくて、最終的には高いポジションに就かれていて、私の励みにもなっています。その楽しみも含めて、それが若い人たちに伝わっていくといいなと思っています。
話は変わりますが、石川さんのお話はとてもわかりやすいですね。
おかげさまで、会社の人からも説明がわかりやすいと言われることがあります。夫には「お前の言うことはわからない」と言われますが(笑)。
ー柔らかい雰囲気でまず門戸を広げることを心がけていると言われていましたが、もしかしたら、石川さんに元々備わってる才能かもしれませんね。いろいろな考え方や背景がある人が関わっていただいた方が、多様性のある意思決定ができるので、結果的に最も改革ができると思っています。石川さんのように、経営層に女性がもっと入っていってほしいですね。

↑石川さんのストレス解消法は“無”になれる時間を作ること。趣味のひとつである家庭菜園ではどうやれば収穫量が増えるか、研究を重ねるといいます。「仕事を忘れて、別のことに意識を集中する時間にはデトックス効果がある」という話で盛り上がりました。