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2022/09/16

#3 どう生きたいか、どう働きたいか。正解のない問いに向き合おう。

こんにちは。名古屋市男女平等参画推進室の榎本です。

現代は「VUCAの時代」と言われています。
VUCA(ブーカ)は、あらゆるものを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が困難な状態を意味する、
V(Volatility:変動性)
U(Uncertainty:不確実性)
C(Complexity:複雑性)
A(Ambiguity:曖昧性)
の頭文字をとった造語です。
AIやIoTなどの様々なテクノロジーが急速に進化し、終身雇用や、大量生産・大量販売といった今までの価値観が通用しない時代に突入しています。
今回は、そんな時代に就職を控える大学生向けに、南山大学でキャリアデザインの講師をされている、西田知佳さんにお話を伺いました。

名大社 人材紹介事業部長 採用コンサルタント/キャリアアドバイザー、
南山大学経済学部 非常勤講師 西田知佳さん

1981年生。神奈川県出身。学生時代は遺伝子工学を専攻し、外資系理化学機器メーカーに就職。その後、エン・ジャパンへ転職し、人材紹介事業(現:エン・エージェント)の立ち上げから仕組み作りにも携わる。年間1000名を超える転職相談を受けた後、組織人事コンサルタント、飲食店経営者、NPO職員を経て現職。

(-は榎本が発言)

-先日南山大学で西田さんの講義を見学させていただいたのですが、フランクで元気なトークと「正解のない問いに向き合おう」というキャッチコピーが印象的でした。
まずはどんな講義をされているのか教えていただけますか。

西田さん:
2~4年生の夏学期の授業で、タイトルは「自己とキャリアの形成」、約2カ月間(週2回、全14回)で概ね次のようなカリキュラムになっています。
【前半】
・社会に出て求められる力
・過去の出来事を振り返り、自分を探ってみる
・就職活動の最近の事情を知る
【中盤】
・4回の講義で、計5人のゲストが登壇。自身の社会人経験や就活経験などを語る
※南山大学出身で、若手社員、平社員から取締役になった方、転職経験者などゲストのジャンルは様々
【後半】
・学問的なキャリア理論を学ぶ
・ゲストの話をキャリア理論にあてはめて振り返る
・人生100年時代の生き方・働き方を考える
・改めて、自己のキャリア形成について考える


  ↑講義をする西田さん

-講義のポイントを教えてください。

西田さん:
「変化に柔軟に対応できる人材を目指す」そのために…
・正解の無い問いに向き合う練習
・自分の考えを持つ練習
・疑問を持ち、質問力をつける、
ことを重視しています。

-経済産業省が「人生100年時代の社会人基礎力」を提唱し、「実行力」「課題発見力」「柔軟性」を始めとする幅広い能力が必要と示しています。講義のポイントは、それに通じるものを感じます。まさに、VUCAの時代に求められる人材ですね。
-見学させていただいた回の講義で紹介されていた、「職業選択において大事なこと」の手法が気になりました。詳しく教えてください。

西田さん:
上の図が、実際に講義で使っているものです。
変化の激しい時代を迎え、大企業に入れば安泰というような従来の画一化された価値観は通用しなくなっています。そのため就活を始める前に、自分をしっかり知ろうとすることが大切です。
とはいえ、本当に、自分を理解することは難しいです。そのため、講義では、キャリア理論を活用して客観的に自己を分析したり、夢の棚卸しシートで過去を振り返り、夢中だったことや自分の好きだったことを書き出してみたり、自分の中にある大事な価値観を探ったり、いろいろな手法を組み合わせて、自分はどうありたいかの仮説を立てる方法を推奨しています。
そして、いろいろな社会人に話を聞いたり、合同説明会に参加したりして、情報収集と仮説検証をします。さらに、得られた情報や検証を元に、再度仮説を立てて…、上の図の①と②を行ったり来たり、何回も繰り返します。そして、どう生きたいか、どう働きたいかを繰り返し考えます。
どう生きたいか、どう働きたいか、方向性が見えてきたら、自身の価値観を実現できる会社がどこかを考えるといいです。インターンシップやOB・OG訪問などで、さまざまな社会人の働き方や価値観に触れ、フィードバックをもらうことで少しずつ行きたい会社などの方向性が明確になります。

-具体的な手法が示されていて、とても実践しやすいと感じました。また物事が急速に変化し、従来の価値観が通用しなくなる、そんな時代だからこそ、どう生きたいか、自分なりの価値観を持つことが重要で、社会人にとっても、今までの働き方を振り返り、これからを考えるために有用なツールだと思いました。

西田さん:
講義で例えば次の理論を紹介しています。

ジョン・L・ホランドの「六角形モデル(RIASEC)」…パーソナリティ(性格)と職業(働く環境)のタイプを6つに分類しました。人の性格に適した職業を選択するための理論です。
ドナルド・E・スーパーの「14の労働価値」…仕事に対する人の価値観を14項目に特定し、この中で、ひとつ、あるいは、いくつかの価値観が組み合わさって、個々の仕事に対する価値観が生まれていると説きました。この理論を使うと、自分にとって仕事が何かを分析することができます。

他には、学生に提出してもらったレポートを読むと、ドナルド・E・スーパーの「ライフキャリアレインボー」という理論が一番心に刺さったという回答が多く、自分としては意外でした。
この理論は、キャリアという言葉を単なる仕事として捉えるのでなく、人生全般と捉えます(=ライフ・キャリア)。また、仕事に関わらず人生の様々な局面で訪れる役割を組み合わせてキャリアが形成される、多様なキャリアが積み重なっていく様子を虹に例えるものです。
この理論から、仕事だけやっていればいいわけではない、人生のワークライフバランスが重要なんだ、と気づきを得た学生が多かったようです。

  ↑講義の様子。みんな真剣です。

-講義の中盤で、若手、中堅、転職してキャリアを積む働き方など、様々な属性の社会人から話を聞く回は面白いなぁと思いました。私が見学させていただいたときは、7回の転職を経て豊かなキャリア形成を実践されている40代の方がゲストでした。社会人になって、ピンチが何度も訪れるんですが、それを勇気や行動力で乗り切るお話がとても印象的でした。

西田さん:
学生には終身雇用だけがすべてじゃない、転職してキャリアを積む方法もあるんだ、ということを知ってほしいと思っています。
講義で取り上げる、ナンシー・K・シュロスバーグは、様々な人生の出来事(予期していたこと、予期していなかったこと、予期していたことが起こらなかったこと)を「転機」と捉えます。転機には、「人生の役割」「人間関係」「日常生活(何を、いつ、どのように行うか)」「自分に対する考え方」のうち複数が変化します。その際、変化を恐れずに、よりよいキャリア形成へ進むために、「状況(Situation)」「自己(Self)」「支援(Support)」「戦略(Strategy)」の4つのSを確認することが重要と説いています。
ゲストの体験談をこの理論に落とし込むと、人生の出来事を転機と捉え、変化に対応すべく戦略を選び取り行動していることが分かります。


  ↑講義の様子。みんなPC持参で驚きました。

-「人生100年時代を想定したキャリアを考える」というテーマも講義で話されていましたね。どんなことを大学生に伝えているのか教えてください。

西田さん:
「人生100年時代」とは、世界的にもベストセラーとなった『LIFE SHIFT』の著者であるリンダ・グラットン氏が提唱した言葉です。
聞いたことがあっても、現実味を帯びていない学生が多いので、説明する価値があると思っています。

同書では、先進国で生まれる子どもの2人に1人が100歳以上生きる「人生100年時代」が到来すると予測しており、100年間生きることを前提とした従来とは異なるライフプランを立てていくことが必要とされています。終身雇用が崩壊し、寿命が延びて年金だけでは生活できなくなる時代がやってくるということでもあります。そんな時代にこれから社会に出るんだよ、ということをまずは学生に伝えています。

これまでの人生設計は「20年学び、40年働き、20年休む」という「教育・仕事・老後」の3段階が一般的でしたが、100歳まで生きることが一般化する社会では、年齢による区切りがなくなります(=人生のマルチステージ化)。年金がいつからもらえるか分からない中、必然的に働く時間が延びていきます。寿命が延びる分、全力で働き続けるのか…嫌だな、と考えがちですが、例えば、同時期に複数の仕事や活動に携わったり、社会人を経験して再度大学で学び直したりなど、人生において何度もステージの移行と変化を経験する生き方もあるんだよ、ということを伝えています。学び直しや転職、副業など、多様な選択肢があることをプラスに捉え、どうやったら人生を豊かに過ごせるか考えたり、先を見据えるきっかけにしてほしいと思っています。

また『LIFE SHIFT』では、充実した100年ライフを送るためには、定年後に必要な有形の金銭的資産の他に、マルチステージを生き抜くための高度なスキルや知識、肉体的・身体的な健康、家族や友人との人間関係といった無形資産が重要とされています。
変化に対応できるよう、新しい知識を常に取り入れ、健康に気を付けたり、ワークライフバランスを保ったり、複数のコミュニティに参加したり、様々なことを重視する必要があります。

-健康・人間関係といった無形資産の投資や、学び直しなどが重要になってくるということですね。とはいえ日常の業務に忙殺される中、時間に余裕がなくて…。
西田さんは、充実した100年ライフを送るために、実践されていることはありますか。

西田さん:
私が100歳まで生きるかはさておき…せっかくだから豊かな40年にするために、若いときから先を見据えて努力する必要があると思っています。努力するといっても苦しい努力ではなく、楽しい努力です。1つの会社がずっと面倒みてくれるわけでもないので、会社の肩書やネームバリューに踊らされて努力を怠っていては豊かな40年は待ってないでしょうね。モットーは「考えるよりすぐ行動」です。失敗も含めて、行動することで次やるべきことが分かるからです。
実践していることは、「学びを辞めないこと」です。社会人でも通える大学や、講座、お絵かき教室などいろいろな学びに取り組んでいます。学生時代は全く勉強しない学生だったのに(笑)。

-キャリアに悩んでいる人、このままでいいのかな…と漠然とした不安を抱える人へのアドバイスをお願いします。

西田さん:
転職もアリ、同時期に複数の仕事や活動に携わることもアリ、今の仕事で違う立場を目指してみるのもアリ。まずは、様々な選択肢があることを知るのが重要だと思います。
また、講義で話す、ジョン・D・クランボルツの「計画的偶発性理論」では、個人のキャリアの8割は、偶然の出来事によって決定されると言われています。また、「偶然の出来事が起きたとき、行動や努力で新たなキャリアにつながる」「何か起きるのを待つのではなく、意図的に行動することでチャンスが増える」とも。悩んだらまずはチャレンジしてみることが必要です。

とはいえ、例えば結婚、出産などでライフステージが変わったとき、変化への対応だけでいっぱいで、さらにチャレンジするのは大変酷だと思います。出産、育休中の社会から取り残された孤独感は本当につらいと思いますので、抱え込まずに、とにかく誰かに吐き出してほしいですね。
とある企業では、育児休業中の女性社員が疎外感で孤立しないように、集まって座談会をする場を設けているそうです。そういった場があると、同じ立場同士悩みを打ち明けやすいですし、つながりもできやすいので、素晴らしい取り組みだと思いました。
私は、子育ては、渦中は本当にしんどいと思いますが、振り返ると貴重な経験で、1つ1つのプロセスがマネジメント能力につながると思っています。

-それでは最後に、読者の女性にメッセージを一言お願いします。

西田さん:
働く女性として、母として、妻として、いろんな立場を経験できるのが女性の強みだと思います!それをネガティブに捉えるか、前向きにその役割を利用できるかは自分次第!

-西田さん、貴重なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!


  ↑大学の講義室。とてもきれいでおしゃれでした。

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