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2024/01/10

vol.6「男性育休のパイオニアになってください」 上司の一言が、育休にとどまらない活動のきっかけに!

女性が仕事と家庭を両立するには、パートナーの協力が不可欠です。政府は2025年までに男性の育児休業取得率30%を目標に掲げていますが、2022年度の日本の平均取得率は17%。目標を達成するにはまだ時間がかかりそうですが、男性育休を取得する人が年々増えているのも事実。今回は、男性育休をきっかけに働き方や社会へのかかわり方が変わったというトヨタ自動車の伊藤翼さんに話をお伺いしました。

伊藤翼さん
トヨタ自動車株式会社 素形材技術部 鋳造技術室 主任
2007年入社。他社の総合職として働く妻と長男(8歳)、長女(4歳)の4人暮らし。2019年、2人目の妊娠をきっかけに男性育児休業を取ることを決意。育休中に乳幼児の睡眠に特化した「IPHI乳幼児睡眠コンサルタント」の資格を取得。社内外で「男性育休セミナー」「寝かしつけ講座」を開催するほか、育児コミュニティーを立ち上げるなど、男性育休のパイオニアとして活動中。趣味はランニング・読書・料理。

厚生労働省「イクメンプロジェクト」にて第22回イクメンの星にも選ばれました!
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/employee/star/list/detail/#star22

「私もキャリアを大切にしたい」という妻の言葉に驚愕。自分と妻は対等なのだと気づきました。

―男性育児休業を取得されたきっかけを教えてください。
 きっかけは妻との壮絶なバトルです(笑)。2人目の妊娠がわかったとき、妻に「1人目の時は私が1年3カ月休んだから、次はあなたが育休を取って」と言われて驚愕しました。もともと僕の中には「育休は女性が取るものだ」というマインドがあったため、最初は大喧嘩になりましたが、「私もキャリアを大切にしたい」と言われハッとしました。妻とは10年ぐらい付き合って結婚しましたが、僕は妻がキャリアを大切したいと思っていたことをまったく知らなかったですし、女性がキャリアを歩みたいという思いを持っていること自体あまり認識がありませんでした。そのときはじめて自分と妻のキャリアは対等なのだと気づき、育休を取る決意をしました。

―当時、社内に男性育休の事例はありましたか?
事例はあったようですが、身近にはいませんでした。だから、育休を取ることを決めたものの、上司にどう伝えようかな?とか、妻の体調が悪いなど特別な理由が必要なのでは?とかいろいろ考えていました。勇気を振り絞って育休取得を宣言した際に、僕が一番嬉しかったのは「パイオニアになってください」と部長が背中をおしてくれたことです。そのおかげで「男性育休のパイオニア=先駆者として何を残せるだろう」という意識が芽生えました。

↑育休中に寝かしつけの資格を取得。育児のストレスが劇的に減ったといいます。

できない自分を目の当たりにしたことで
何気ない日常の大切さを認識しました。

―育休前の準備で心がけたことはありますか?
育休を取ることが決まってから、2つアクションを起こしました。1つはメンバーに何が不安かを聞くことです。当時、チームリーダーという立場だったので、みんなから細かく悩みを聞いて仕事を“見える化”し、分業できるようにしました。2つ目は先輩ママさんたちに話を聞きに行くことです。その時に「育休は異動と一緒」と言われたことが一番の気づきでした。僕の場合9カ月ぐらい前に申告したので、一般的な異動よりも引継ぎ期間が長くいろいろと準備することができました。あと、若いメンバーに「伊藤さんの口から関係者の方にいつから育休を取るから不在になると伝えておいて欲しい」と言ってもらったことも大きかったですね。自分から口にすることで他部署の人からも「育休期間中に仕事で何かあったら誰に問い合わせすればいいですか?」と聞いてもらえたので、結果それが“見える化”につながりました。

―準備期間を経ていよいよ育休に入りますが、大変だったことはありますか?
妻は出産後3カ月で復帰することになっていたので、1週間だけ引き継ぎをしました。妻がいたときは「なんだできるな」という感じでしたが、今思うとやった気になっていただけでした。いざワンオペになったら全然片付かないし、あっという間に時間が経っているし、ストレスでヘルペスになりました。そんな時に、育休を取ったことがある先輩から「辛くなった時期じゃない?」と電話がかかってきて。今の大変な状況を伝えたら「頑張りすぎない方がいいよ」と言ってくれました。今振り返ると当時は、“育休も自分の成長のため”という思いが強かったのだと思います。できない自分を目の当たりにし、最初はそれが受け入れられませんでした。でも、先輩や周りのママさんに「そういうもんだよ」と言われて考え方が変わりました。何気ない日常があって、家族が笑顔でいられればいいと思えたことで育児が楽しくなりました。

↑育休中の目標も“見える化”しました。

自分は「社会人」ではなく「会社人」だった!
育休を取ったことで社会に目線が向くようになりました。

―育休を取ってよかったと思ったことは?
「当たり前はない」ということに気づけたことです。「子どもが生まれたら女性が育休を取るのが当たり前になっているのはなぜだろう?」と疑問を持ち、そういう目線で周りを見るようになりました。例えば、子どもを預けたときに保育園の先生が「行ってらっしゃい」と言ってくれるのですが、これって当たり前ではありません。改めて、世の中はいろいろな人の優しさで回っているのだと感じました。今まで当たり前に仕事に行って、当たり前に家に帰って「今日も頑張った!」と思っていましたが、仕事をするのにもいろいろな社会の仕組みが重なってできているということに気がついて、世の中の見方がガラッと変わりました。昔は「自分がやらなきゃ」と抱え込むタイプでしたが、育休を取ってからは「どうしたらみんなが気持ちよく力を出せるのか」と考えるようになりました。サポート側の意識が目覚めたという感じですね。

―育休初期の全然できないという挫折を経験したことが大きかった?
そうですね。大学を卒業して会社に入って、自分は社会人になったと思っていましたが、挫折して気づいたのは、自分は「社会人」ではなく「会社人」だったということです。育休を取って社会というところに目線が向くようになったときに、自分ができる社会貢献ってなんだろうという気持ちが芽生えてきました。

―育休を取ったことで、仕事への考え方も変わったということですね。
育休を取ることのメリットは、まず家事の大変さがわかったこと。あと、妻と感覚のすり合わせができたこと。家事育児に時間をさくためには仕事を効率的に行う必要があるので、いかに仕事を属人化させず、人とシェアし頼るかということを意識しなくてはいけません。また、みんないろいろな事情があるということを把握することも大事。お互いに寄り添う気持ちがあれば、仕事がやりやすくなる人たちが増えていくと思います。若い人たちにとってそれが当たり前になって、働きやすさが向上し、結果として生産性の向上につながっていくといいですね。

―当たり前も変化していくということですね。
今後、男性育休取得者が増えていく中で取得者だけなく上司の方も悩みが増えていくと思っています。ひとつは「仕事をどうやって回していくか」ということで、これは当事者と上司だけでなく、組織全体で解決策を作っていく必要があると考えています。もうひとつは育休についてのアドバイスが難しいという事。「いつから取るといいですか」とか「育休中は何をしたらいいですか」とか聞かれても中々答えにくいと思います。育休に関するアドバイスに関しては「あの人に聞けばいいよ」と気軽に言えるような役割を持った人が必要だと思いますね。

―まさに伊藤さんの役割ですね。
より良い育休取得の仕組みを作り、経験者と関係者がアップデートして次につないでいけばいいと思っています。僕が意識しているのは、男性育休はあくまでも両立のひとつだということ。男性育休もダイバーシティのひとつだと思いますが、一方でかなりせまい領域でもあります。男性育休が波及していけば社会が働き方を見直すことになります。それは、介護はもちろん、若い人たちがキャリアアップのために違う学びをしたいとか、いろいろな両立の展開性とか将来性につながっていくと思っています。男性育休をきっかけに、「両立ってなんだろう」「いろいろな両立の仕方ってあるよね」といったところに議論を持っていきたいと思っています。今は男性育休に時代の流れが来ているので、僕たちが引っ張っていくことで、「実は介護で困っている」というような声が出しやすくなるといいですね。

↑コロナ禍に立ち上げたコミュニティーも、今では約200人のメンバーがいます。

「イクメンの星」に応募し優勝!
トヨタ自動車の社員として何をするべきかを考えました。

―「イクメンの星」に応募したきっかけを教えてください。
厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を進めていて、そのひとつに「育児と仕事の両立」など、育児に関するエピソードをスピーチし表彰する「イクメンの星」があります。初めは興味なかったのですが、オンラインをはじめとする交流の場を通して、世間のトヨタ自動車に寄せる期待が思った以上に大きいということに気づきました。「トヨタ自動車に勤める男性が育休を取っている事に希望を感じます。男性育休を広めてください。応援します!」と言われ続けたこともあり、応援の声に応えるためにイクメンの星を取りたいと思うようになりました。育休中に出会ったみなさんのおかげで、社会全体においてトヨタの社員として何をすればいいかという目線が芽生えました。そして、イクメンの星に選ばれたとき「パイオニアになってね」と言ってくれた部長がすごく喜んでくれた事が心から嬉しかったです。僕の周囲で育休を取ったり、育児に積極的に参加したりするパパも増えてきています。今後もそういうパパを増やせるよう活動を続けていきます。

―育休を取りたいと考えている男性にアドバイスはありますか?
まずは知ること。そして、何かあったときに相談できる人や頼れる先をつくることですね。僕たちの親世代は父親が働いて母親が家にいるというケースが多いので、父親が家事育児をしているというイメージがわきにくい。だからこそ、育児と仕事を両立している先輩たちと会話して、イメージを持つことが大切だと思います。全部自分たちでやろうとするのではなくて、自分たちがどこに頼れる選択肢があるか、選択肢を増やしておくことが大切だと思います。

―最後に、ナゴ女たちにメッセージを。
自分のやりたいことを諦めないで欲しい。僕の妻もキャリアを歩むことを伝えていいのかという迷いがあったみたいですが、今は仕事も学びも諦めず楽しそうです。みなさんも、パートナーや周りに自分の思いを積極的に伝えてください。ポイントポイントで相談し合うのは大事なことですね。

↑趣味のランニングが原動力! 毎日昼休みを利用して走っています。

↑一日のスケジュール

↑「ひとりの人間として、親がやりたいことをやっている姿を子どもにみせることが大事だと思います。」と伊藤さん。

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