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2023/09/20

Vol.3 モットーは「better than nothing(ベター・ザン・ナッシング)」 管理職になれば変えられるし、できることが増えます。

結婚、出産など働く女性にはいくつかの分かれ道があります。また、日本の企業にはまだまだ女性の管理職が少ないという現実もあります。今回は、NHK名古屋放送局の山本恵子さんに子育てのことや管理職として心がけていることなどをお伺いしました。

山本恵子さん
NHK名古屋放送局コンテンツセンター チーフ・リード 兼 解説委員(ジェンダー・男女共同参画担当)。名古屋大学大学院修了後、NHK入局。金沢放送局、社会部、国際放送「NHKワールドJAPAN」を経て現職。教育、働き方改革、ジェンダー問題を中心に発信。2009年アジアソサエティ若手リーダー「Asia21 フェロー」に選ばれる。高校生の娘の母。
ストレス発散法は休日の昼ビール。園芸が趣味。

【山本さんの共著】
「足をどかしてくれませんか~メディアは女たちの声を届けているか」(亜紀書房)
「いいね!ボタンを押す前に~ジェンダーから見るネット空間とメディア」(亜紀書房)

【山本さんの記事】
山本 恵子解説委員の記事一覧 | NHKライフチャット
https://www3.nhk.or.jp/news/special/lifechat/post_113.html
https://www3.nhk.or.jp/news/special/lifechat/post_119.html

「KYジャーナル」男女共同参画のカギは男性活躍!?
https://www.nhk.or.jp/nagoya/lreport/article/001/52/

1からわかる!少子化問題(1)このままだと日本はどうなるの? htthttps://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji131/ps://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji131/

ベースにあるのは半径5mの社会問題。
生活者の目線で疑問を解決してきました。

-大学院修了後、NHKに入局されたということですが、昔から記者を目指していたのですか?

 昔から嫌なものは嫌だという性格なので、中学生のころは先生と合わなくて…。最初はダメな先生を変えたいから教育委員会に入ろうと思っていましたが、子どもたちに寄り添う心理カウンセラーという仕事があることを知り、名古屋大学の教育学部に入学しました。もともと教育のあり方や、森林伐採などの環境問題が気になっていたのですが、大学院に進む前にドイツに留学したときに「開発教育」に出会い、大学院では「国際理解教育」について学んでいました。当時はインターネットもなかったので、修士論文を書くために研究をしている人に直接会いに行っていたのですが、その中にNHKのOBの方がいて「君は記者に向いている」と言われたことがきっかけです。

-実際に働いてみて、記者の仕事は自分に向いていると思いましたか?

私の短所は、興味関心が続かないことです(笑)。根底には社会的な課題や貧困、ジェンダーなどがあるのですが、記者の仕事は毎日違うことが起きるので、そういう意味では向いていました。また、知りたいことを当事者に聞けるので、自分が「おかしい」と思うこと、興味関心があることを取材して、それをニュースとして発信するという記者の仕事は自分にすごくあっていて、天職だと思っています。

―入局してすぐに、天職だと感じたのでしょうか?

最初はまったく思っていませんでした。初任地の金沢で、夏の暑いときに噴水の水が出ていないことがあって「なぜだろう?」と問い合わせをしたところ、冬の融雪で地下水を使いすぎたのが原因だったということがわかりました。市民のみなさんの疑問を代わりに聞いて、記事にできるということを自覚したときに、すごくいい仕事だなと思いました。

―生活の目線での疑問を解決することが、自分の役目だと思ったということですね。

ベースにあるのは半径5mの社会課題です。生活の目線でおかしいと思ったことなどを先駆的にやっている人に聞きに行って、必ず解決策まで書くことを心がけています。赤ちゃん遺棄や虐待事件が相次ぐなか、愛知県には産んでも育てることができない赤ちゃんを生まれる前からお母さんの相談に乗って、生後すぐ里親に託す「赤ちゃん縁組」という制度があります。赤ちゃんの命を救う方法があることを多くの方に知って欲しいと思っています。また、名古屋局では「子ども子育て応援プロジェクト」を行っています。子どもたちや子育てで頑張っている人たちを支援していきたいし、周りの人たちが行動することで変えていけるということを実証していきたいですね。

女性が声を出していくことが大切!
少子化問題をきっかけに、女性のジャーナリストの会を発足。

―入局当時、女性の記者は少なかったと思いますが、大変なことはありましたか?

あまりに少なすぎて、それが当たり前だと思っていました。性犯罪の取材のときに女性ばかりのチームで行うことがありましたが、それがジェンダーの問題とか社会的構造の問題だということには思いが至っていませんでした。それが変わったのが、2000年に東京の社会部に異動になったことでした。ちょうど少子化が話題となっていて、その原因が「働く女性が増えたからだ」という論議が出ていました。でもそれは、働く女性が増えたせいではなく、働き方に問題があるからだと思いました。働き方が変わらなければ少子化問題は解決しません。そのときに、当事者の女性として声をあげないと報道されないということに初めて気がつきました。今ではワークライフバランスは当たり前になっていますよね。でも、当時はデスクに提案しても相手にされず出稿することもできませんでした。女性記者の多くが、そういう壁にぶち当たっていたので、女性記者同士がつながって情報発信をするために、2001年に女性ジャーナリストの勉強会を立ち上げました。会社の壁を越えて横でつながり、待機児童問題や#MeTooなど、当事者の声がなかなか届かない問題にみんなで取り組んでいます。最初は15人から始めた会も、今ではメンバーが1000人を超えています。ワークライフバランスもようやく主流化しましたが、15年、20年経たないと問題として可視化、主流化しないので、発信し続けることが大事だと思っています。

―働き方も変わってきたと思いますか?

働き方改革は男性を含めて考えるべきだと思っています。女性の活躍推進だけではなく、男性の家庭・地域での活躍がないと男女共同参画は実現できないし、そのできない原因が日本の長時間労働です。法律が変わったのでよくなってはいますけど、やっぱり休まず頑張れとか、会社に長時間いた方がいいとか、メンタリティーが昭和な企業も多い。どうやって意識改革していくのかということが今後の課題だと思っています。考え方も昭和モデルから令和モデルに変えていきたいですね。

↑「KYジャーナル」で空気を読まず、ズバッと解説

 

意思決定できるのは管理職の醍醐味。
おかしいと思うことも、変えることができます。

―管理職になって変わったことは?

2カ月に1回、1週間「まるっと!」という番組の編責(編集責任)を担当していますが、50分の番組でどういうニュースをどんな順番でやるか、どんな企画を持ってくるかなどを自分で決めることができます。私が編責を担当している週は、子どもの問題やLGBTQの問題をトップで伝えることもあります。番組で何を放送するかという決定ができるのはすごく大きいですね。これまでは自分がニュースだと思ったことがすごく小さい扱いだったり、ニュースじゃないと言われたりしていましたが、それをトップにもってくることで大事な問題だということを認識してもらえます。ニュースのトップは政治経済というイメージがありますが、子どもや女性の問題、生活に密着したことなどを、生活者の目線で出せるというのは強みです。合わせて2021年から、ジェンダーと男女共同参画担当の解説委員を兼務しています。名古屋に居ながらNHKの解説委員ができるのは、オンラインの恩恵もありますが、これまで20年やってきたことがようやく時代のニーズに合い、認められたと感じています。

―記者を続けたいとは思わなかったのですか?

私は自分でやることにあまり執着がないというか、やりたいことはあるけれど、それを自分以外の人がやってもいいと思っています。記者は特ダネ、スクープを競うので、自分で得た情報をあまり共有しませんが、女性のジャーナリストの会では「いい人いい情報を共有し、いい発信につなげよう」と情報を共有しています。記者として自分でやると1だけど、管理職(デスク)として「こんな問題があるから取材しない?」と言ったときに、やりたい人が5人いたら5倍の記事が出るということですよね。だから、管理職になると、やりたいことが5倍にも10倍にもできる。

―女性の管理職はまだまだ少ないという現状がありますが…。

管理職になると大変だという人も多いけれど、なったら変えられることとか、ならないとわからないこともあるので「管理職になれば変えられるから、やってみたら」と言っています。10のうち1できないから断るのではなく、「1はできないけど、どうしたらいいか」上司に相談した方がいい。10全部でなくても9できるのならいいと思うし、本当は能力があるのに管理職をやらないのはもったいないので、そういう人は背中を押しています。意思決定の場にいることは重要で、管理職になるとできることが増えるということを知って欲しいですね。自分が「おかしい」と思うことは変えていけばいいし、変えられる立場になるので、できることが増えます。それが醍醐味だと思うので、諦めてないで欲しいと思います。あと、一人では戦えないので、仲間を作ることですね。

―子育てとの両立は大変だったのでは?

子どもが熱を出したときなどは両親が来てくれたし、泊まり勤務は免除してもらえる制度もあったので、毎日綱渡りながら、なんとかやってこられました。災害時など同僚が深夜まで働くなか、早く帰るときには罪悪感を覚えることもありましたが、翌朝早めに出局するとか子どもがいる人の避難はどうなっているのか調べるなど、自分ができることを見つけてやっていくことが大事だと思います。自分のモットーは「better than nothing(ベター・ザン・ナッシング)」、やらないよりは1でもやった方がいいと思っています。そのため、出産後は仕事をチームで行っています。東日本大震災のときも、子どもを残し東北に入って何日も取材するのは無理だけど、若手のディレクターと組んで、自分の経験や人脈とディレクターの行動力を合わせてリポートを制作しました。私一人だったらできないけど、2人だったらできる。NHKワールドにいたときも、働き方の制約がある人たちがチームを組んで子どもの熱が出ても代わりにロケに行くなどして何本ものリポートや番組を作りました。やってみてうまくいったことは、後輩たちに「こういう方法、選択肢もあるよ」と伝えています。

―会社の考え方を変えていくのは大変なことですね。

女性のジャーナリストの会では「仕事を辞めない」が合い言葉でした。思うように仕事ができなくても評価されなくても頑張ろうと。「出産前と比べて5割か6割しかできない」と言う人もいますが、6割できていたらよしとして、自分で自分を責めない。うまくいかないときは、みんなで「こうしたらいいんじゃない?」と意見を出しあったり励まし合ったりできる仲間は大事。会社ではない第2の場所があるというのはすごく大きいですね。私もずっと日が当たっていたわけではなく、主流ではないことをやり続けてきました。壁にぶち当たった時に、みんなはどうやって壁を乗り越えたのか取材したら「壁があるときは動かない」「そのときに力を蓄える」「ケンカして会社を辞めない方がいい」という話を聞いて、今成功している人も壁を乗り越えてきているのだと知りました。すぐに評価されなくても、やってきたことは裏切りません。人生100年時代、キャリアを長期的に考え、自分が大事だと思うことは、やり続けるとか言い続けることが大事だと思います。

↑生活者の声を可視化し、解決に導くために日々奮闘中!

 

みんながハッピーに生きられる社会に!
問題を可視化して、社会課題を解決していきたい。

―今後の目標を教えてください。

みんながハッピーに生きられて、自分も人も大事にできる世の中になるような発信をしていきたいですね。女性のジャーナリストの会のキャッチコピーは「つながることで変えられることがある」です。一人だと声は小さいけれど、つながることで点が線になり、面になって可視化されます。問題を可視化して社会課題を解決していけるような発信を続けたいですね。テレビ離れと言われていますが、メディアができることはまだいっぱいあると思っています。いじめやハラスメントはなくしたいし、子どもや子育て応援もやりたいし、男性の家事・育児に参加したいというのも背中を押したいし、昭和な企業とか組織を変えたいし、まだまだやることがいっぱいありますね(笑)。

↑愛犬ミルクと趣味の園芸で育てている薔薇

↑1日のスケジュール

名古屋市スポーツ市民局市民生活部男女平等参画推進課
〒460-8508 名古屋市中区三の丸三丁目1番1号TEL 052-972-2234FAX 052-972-4206

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