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2022/11/18

#5 やりたいという気持ちの灯を消さないで。やるべきことは、きっとまた機会が巡ってきます。

こんにちは。名古屋市男女平等参画推進室の榎本です。
名古屋市では、女性活躍推進企業と女子大学生の交流会事業を行っています。
今回は、この交流会事業にご協力をいただく中で関わりができた、名古屋学院大学でキャリア支援の講義を担当されている、安藤りか先生にお話を伺いました。

名古屋学院大学 現代社会学部 教授 安藤りか先生

大学卒業後、いわゆるOLを初職とする複数の職を経験。40歳を目前に大学院博士課程前期課程に進学し臨床心理学を学ぶ。その後、大学非常勤講師や大学・ハローワークでのキャリアカウンセリング業務の傍ら、大学院後期課程に進学し教育学を専攻。2013年に名古屋学院大学に着任。キャリアデザインに関する教育と研究に従事し現在に至る。名古屋大学大学院教育発達科学研究科教育科学専攻博士課程後期課程満期退学。博士(教育学)・臨床心理士・公認心理師・キャリアコンサルタント

(-は榎本が発言)

変化の著しい社会で自律的に判断し行動するために、キャリアをデザインする力が求められています。

-キャンパスに学生がたくさん。今年5月頃、交流会事業の打ち合わせで伺った際と違って、活気があり驚きました。

安藤先生:
昨日(=安藤先生へインタビューをした日の前日)から全面的に対面授業が再開しました。前回来ていただいたときは、全学を1/2に分割した上で対面授業とオンライン授業を交互に実施していたんです。そのために通学している学生が通常の約半分になっていました。でも、ようやく全員が来るようになってキャンパスに活気が戻ってきました。

-そうだったんですね。ではまず、現在のお仕事を教えてください。

安藤先生:
キャリアデザイン(自分のキャリアについて主体的な見通しを描くこと、および、必要の都度、その描いた見通しを修正・変更していくこと)とキャリア教育に関する研究、また、全学共通科目「キャリアデザイン」の運営全般を統括するともに、私自身も「キャリアデザイン」の授業を担当しています。

-なぜ学生へのキャリア支援が求められているのですか。

安藤先生:
この問いに対する答は簡単ではありませんが、非常に大雑把にいうと、以前、例えば、バブル崩壊前に比べ、大学を出ても必ずしも就職できなかったり、就職したとしても安定的な雇用や生活を維持できなかったりというような不安定要素が高まってきたためだといえるでしょう。そのような変化の著しい中でも、自律的に判断し行動できる人を育てていくことが大学の役割になったというのが学生へのキャリア支援が求められている主な理由の1つといえます。

 

学生にジェンダーによる社会的な格差を問題提起。働くことを考えると、必ず女性の生き方にぶち当たります。

  ↑1年生へキャリアデザインの講義をする安藤先生

-女子大学生が、キャリアデザインの授業を受講して、結婚後退職するより、結婚出産しても働き続けたい、といったような意識の変容は見られたりしますか。

安藤先生:
「キャリアデザイン」の授業の履修により、勤務継続を志望する女子が増えることは望ましいことだと思っているのですが、現実には個人の価値観を変えるのはそう簡単なことではないとも感じています。

ただ、意識が変わるかどうかに関わらず、授業では男女の社会的性差であるジェンダーについては触れざるを得ません。例えば、本日(=安藤先生へインタビューをした日)の1年生対象授業では「正社員・非正社員」というテーマの中で、コース別雇用管理制度(=総合職、一般職などコースを分けて採用し、各コースで転勤や昇進などの雇用管理が異なるシステム)を取り上げます。これは多くの企業で実施されているもので、一応ジェンダー中立的な制度だということになっています。しかし、ある調査では、総合職の約7割が男性で約3割が女性、それに対して一般職は約8割が女性で約2割が男性という性別によるギャップが報告されています。ここからは“一般職≓女性職”だと思われている現状がうかがえます。

しかしながら、男子学生の中にも転勤をせず安定して働きたいという理由で一般職を希望している学生は少なからずいます。どうやら応募しても書類の段階で門前払いになっているようですが。一方、以前は女性が総合職を希望すると門前払いでしたが、今は女性の総合職も増えてきています。「性別によって就職の入口で分けられてしまうことはおかしくない?」と、授業を通して学生に問いかけています。

また、一般職を選ぶのと、総合職を選ぶのとでは給料がどれくらい違うのか、ということも授業で紹介しています。ある専門家による試算では、入社直後はそんなに差がないのですが、10年経つと月額で十数万円違ってくることが指摘されています。生涯賃金を比べると、高卒の総合職男性の給料より、大卒の一般職女性の給料のほうが1,000万円くらい低いという調査結果もあります。それを女性が自らの積極的な意思で選んでいるならばいいのですが、そうではない場合、結果的に経済的な不利を女性が受けることになります。

つまり、現代社会で“働くこと”を考えると、何を考えても、女性の生き方というところにぶち当たらざるを得ないですね。正社員と非正社員という待遇格差でも、非正社員という社会的な力の弱い立場を女性が担っているという現状が隠れています。学生にはそういう一見見えないところにも問題意識を持ってほしいと思っています。

 

学生からは、ジェンダーギャップに違和感を持つ意見も。社会の前向きな変化の兆しを感じます。


  ↑講義を受ける学生の様子。講義室後ろから撮影。

-事実上のジェンダーによる待遇格差ですね。講義でそういった話を聞いた学生は、どんな反応をするのでしょうか。

安藤先生:
こういうことを言うと、100人のクラス中、2,3人程度の男子学生から「むしろ男性差別だ!」という意見が出てくることもあります。そういう男子学生が例に挙げるのは地下鉄の女性専用車両で、「女性だけが快適な思いをしている!」と。また、「最近は女性だからという理由で会社役員などになる人もいるが、それはおかしい!」という意見もあります。

-社会の縮図ですね。2~3人なら少ない気もします。

安藤先生:
はい、本当に社会の縮図だと思います。
一方で、「女性が差別されるのはおかしい」「自分の結婚相手には正社員で働いてほしい」「自分の配偶者にはそんなつらい思いをさせたくない」という、まるで現状に対して怒りを感じているかのような雰囲気で意見を述べる男子学生も年々少しずつ増えています。それは社会の前向きな変化の兆しのように感じます。ジェンダー平等に向けて期待できるところというべきでしょう。

 

昔ながらの人生モデルは揺らいでいます。だからこそ、どう生きたいか、自分自身の観点を明確化することが重要です。

  ↑講義を受ける学生の様子。真剣に聞き入っています。

-終身雇用が崩れ、所得が減り、今までのような男性が養い女性が家事育児をするといったモデルが成り立たなくなっているように感じます。不安定な世の中ということもあり、最近の学生は結婚願望が薄れてきているのでしょうか。

安藤先生:
大多数の学生は結婚したいと思っているようです。ただ、これは新しい傾向だと感じているのですが、これも100名中2,3名程度でしょうか、「僕は自分のためだけにお金を使いたい。家族とはいえ他人のためにお金を使いたくないので結婚はしたくない」という主旨のことを述べる男子学生がいます。その理由はまだよくわかりませんが、社会全体の経済の見通しの無さが影響しているのではないかと推測しています。それに対して、女子学生は、今も昔も「結婚したいが、苦労したくないので、収入のしっかりした人と結婚したい」いう意見が一定数を占めています。

私の授業では、“働くこと”に関する社会の価値観の変化を学生に知ってもらうために、経済産業省の官僚有志グループが作った図式「昭和の人生すごろく」を何度か取り上げています。女性に関しては、学卒後に就職はするが、いわゆる“腰掛入社”で、正社員の男性と結婚して退職して、子どもを2人産んで…という「昭和の人生」モデルが確実に減ってきていることが図示されています。

このような授業中の取組を通して、学生は、自分の親世代と同じようなキャリアデザインではなかなか通用しないということを学んでくれていると思います。しかし、昔ながらの固定的なあり方が揺らいではいるけれども、その分、新しい機会も生まれています。そのような中で、「自分としてはどうしたらいいのか」という自律的な観点を持ってキャリア形成に臨んでほしいというのが、授業を通して学生に伝えたいところです。

 

誰かのための時間ではなく、“私のこと”を考える時間。自己理解を深め、「思い」を「行動」に変える。

  ↑自分力アップセミナー(安城市)の様子
  
-先生は、安城市で、主婦や子育て中の女性向けに、自分力アップセミナーを担当されています。このセミナーの目的やどんなプログラムなのか教えてください。

安藤先生:
“「思い」を(1㎜でもOK!)「行動」に変えてみよう”を目標とする全6回(1回2時間)のセミナーです。「人生100年時代の女性のキャリア」など、今の日本社会における女性の位置づけを俯瞰的に捉える試みもしつつ、グループワークによる自己開示&フィードバックを多用することで自己理解と相互理解を深めていきます。

参考にしているのは、1960年代後半にアメリカの女性運動の中で生まれたというコンシャスネスレイジング(=参加者が関心を持ったテーマについて、お互いを尊重しながら少人数のグループで語り合う手法)です。女性同士の共感のネットワークを作り上げ活用していく、非常にパワフルな方法だと思います。

-このセミナー、とても気になり、先日見学させていただきました。私が見学したのは4回目、セミナー卒業生のパネルディスカッションやグループワークを通じて、今後のなりたい自分を考える回でした。セミナーをきっかけに意識が変わったり、行動を起こしたり、自己肯定感が上がったという卒業生の方のお話は、聞いていて自分も勇気をもらいました。

安藤先生:
このセミナーがきっかけでキャリアコンサルタントや産業カウンセラー等の専門資格を取得した、サロンを開いた、市民団体を立ち上げた…という方もいらっしゃいます。それぞれの立場でそれぞれのスキルや持ち味を発揮するきっかけとしてこのセミナーが少しでも役立っているのなら嬉しい限りです。

話は逸れるかもしれませんが、前回のセミナーでは、カードソーティングという手法で価値観分析をやりました。価値観の書いてある15枚のカードを、自分が大事だと思う順番に並べ替えて、なぜ自分がそう思うのかをグループ内で自己開示し、フィードバックを受けるというものです。

そこで、ほとんどの方が「プライベート」のカードを重要だと位置づけていたのが印象的でした。皆さんの発言からは、日頃は“家族のため”の時間を最優先にしている分、自分のために使える時間が得られにくいという切実な思いがひしひしと感じられました。このセミナーには、“自分のため”の時間を求めて来ておられるというのもあると思います。同じ思いを抱える仲間の集まりですから、パッと話が合うということもあるのでしょう。

その是非は置いておくとして、女性は周囲から家族をケアする役割を期待されることが多いかと思います。そのような中、誰かのための時間ではなく、私のことを考える時間を過ごす。そして、その中で仲間と共感しあいながら気持ちを整理して前に踏み出していく、それがそれも自分力アップセミナーの意義かもしれません。

 

蒔かれた種はいつか芽が出ます。簡単に諦めない人生を感じてほしい。

-このセミナーを通じて伝えたいことはありますか。

安藤先生:
人生って、蒔かれた種はいつ育つか分からないんです。セミナー卒業生で今は社会的に活躍されている方も、すぐに目標が達成されたのではなくて、何年かかけていろんなチャレンジをしたり、資格を取ったりして、今ようやく良い形で具体的なチャンスが巡ってきた、そして、そのチャンスを掴んだ…そういった人もいます。

そのようなセミナー卒業生の姿勢も参考にして、セミナー参加者の皆さんには「簡単に諦めない人生」を感じてほしいというのが大きいです。芽が出るのはそれは今すぐにではないかもしれない。特に女性の場合、家庭の環境や自分以外の要素に大きく左右されるので。しかし、自分がやるべきことはいつか芽が出ると私は思っているんです。

-このセミナーを通じて、種蒔きのお手伝いをされているんですね。

安藤先生:
そうかもしれませんね。

 

あなたの本質を生かせる「やるべきこと」は、いったん諦めても、きっと機会が巡ってきます。

-結婚や子育てでキャリアをいったん諦めたけれども、やっぱり諦めきれない、そんな女性へのメッセージをお願いします。

安藤先生:
これは大学教員としての研究や教育経験から…というよりは、私個人の人生訓であることを予めお断りした上でのことですが…。「やるべきことなら、きっとまた機会は巡ってくる」とお伝えしたいです。あなたの本質を生かすことができる「やるべきこと」は、人生の上でかなりしつこく何度も何度もやってきます。やっかいなことに、そのとき自分はやりたくなくても、姿形を変えて何度も何度も。そうなったらもう、やるしかないのではないでしょうか。

逆にいうと、いろいろ環境が整わない場合は今やらなくてもいいんです。例えば、家庭と仕事の両立に悩んで、「今は家庭を取りたい。でも、そうすると仕事を諦めてしまうことになるのだろうか、もうチャンスがなくなるんじゃないだろうか…」と悩むかもしれませんが、そういうときはいったん仕事を離れるのも手だと思います。たしかにその仕事はそこで終わってしまうかもしれないけど、また姿形を変えて、あなたが本質を生かすことができることがきっとやってくると思います。とにかく、「何かやりたい」「自分ならではの力を発揮してみたい」という気持ちの灯は消さないように、大切に温めておきましょう。

-今自分ができなくても、それをネガティブに捉えるのではなく、次に機会が来るかもしれないと思うことが重要なんですね。

安藤先生:
「来るかもしれない」ではなくて、「次の機会は来る!」んじゃないでしょうか。それは自分が思い描いていた形ではないかもしれないけれど、自分をもっと生かす道として芽吹き、花開くんだと思います。
状況によっては、諦めも肝心。それは表面的には撤退のように見えるかもしれませんが、全然撤退ではありません。頓挫したらしたでそこからまた道が開ける。それも一つのきっかけだと思います。

 

自分がやりたいと思ったことを書き留める。それが進むべき道しるべになります。

-このナゴ女応援サイトをご覧いただいている女性や大学生の方へのメッセージをお願いします。

安藤先生:
今の自分が“本当にやりたいこと”をノートに書き留めておくことをお勧めしたいです。このときは、「でも〇〇があるから、こんなこと無理だし…」「私にはそんな能力がないし…」といった現実はいったん脇において、自分の心の奥底にある気持ちを正直に書き留めることが肝心です。
また、子どものころから今までに描いていた夢を思い出し、どうしてそう思ったのかの理由も書いて、できれば分類しておくと良いでしょう。例えば、「人前で発表する」「リーダーシップを発揮したい」「美しさを表現する」など、本質的な共通部分を探してグループ分けするといった具合です。

それに加えて、日々自分がやりたいと思ったことも書き留めておく。そのノートを時々自分で読み返すんです。実は私も、20代後半頃、つまり、今から約30年前にそんなノートの記述を始めました。私にとっては、このノートが、迷った時の自分自身のカウンセラーになった気がします。  ↑約30年前に書かれた安藤先生のノート

-先生のノートにはどんなことが書かれていたのですか。

安藤先生:
その20代後半に書いたノートの内容は、「新しいことを提案するようなことで、人の生き方に関わるようなことで、男女比は半々で、人生について話ができる人がいて、できれば個室があって、ブラインドから緑が見えて…そんな職場で仕事をしたい」というものでした。

抽象的なことばかりで、これだけでは具体的にどういう仕事なのかが自分でもさっぱりわかりませんでしたし、自分の中でも「こんなこと実現しようといったって無理じゃない?」という否定的な思いが次から次へと湧き上がりました。でも、できる限り自分の気持ちに正直に書いてみようと思って、なんとかそういう否定的な思いを払しょくして、「理想が叶ったらこんなふう」というのを書きましたね。

それ以降、特に仕事に関しては何度も挫折を経験し辛い思いもしてきました。でも、あるときふと気づいたら、「あれ?これってだいたい叶っている?」と。例えば、このインタビューを受けている私の仕事場は個室で、ブラインド、外には緑が見えるでしょう?

-先生の今の状況が、ノートのとおりになっていてちょっと震えました。私も、お気に入りのノートを買って、実践してみたいと思います。
本日は、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!

 

~インタビューを終えて~
-優しい、落ち着いた口調が印象的な安藤先生。お話をうかがっていると、カウンセリングを受けているようで、インタビュー後は、穏やかな気持ちになりました。

-来月のコラムは、そんな安藤先生が担当されている、安城市の自分力アップセミナーで出会った、セミナー卒業生の山本さんにご出演いただきます。ぜひ次回をお楽しみに。

 ↑研究室の壁にピカソの絵が。旧ボストン美術館で購入されたシールなのだとか。白い壁に彩を添えていました。

名古屋市スポーツ市民局市民生活部男女平等参画推進課
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